「気球って 好きですか ?」 (下) (106)
ローカル新の紙面を、カラフルな巨大気球が飾った。
大成功した ?
バーナーで気球に熱風を入れる作業は、副担任と自分の2人だけが行った。
危険だからである。
副担任は、運動部系で体力のある人間だった。
自分は、体力がない。
上を向いたまま、バーナーで熱風を送り込みつづける。
途中、クラクラッときそうになる。
必死だった。
もし作業中に貧血でも起こし、セートの顔を焼いてしまったらと思うと … 。
今でも、ゾッとする。
クラス全体の盛り上がりを、つくることができなかった。
運動部の生徒たちの大半は、
準備作業に参加できなかったからである。
縫製作業でがんばったのは、部活に入っていないごく少数のセートたち。
よくも、あれだけの膨大な作業量をこなしたものだ。
ほとんど何もしなかったセートたちの、気球への思い入れは希薄だった。
後ろめたさを感じていたかもしれない。
当日、気球をあげる時間は、風のないごくわずかな時間だった。
あげてしまうとセートたちは、何もやることがない。
他のクラスは、模擬店やお化け屋敷などで一日中盛り上がっている。
セートたちは、他の催し物をみてまわるしかない。
もし、もう一度やるとしたら、
「実行委員会」をつくり、有志を集めてやるだろうと思う。
そしてバーナーを使うのは、体力のあるキョーシにまかせる。
クラス全体で盛り上がれたら最高だったのにと思う。
テレビドラマのような感激的なシーンは、ついになかった。
ここが、不器用キョーシの限界である。
熱気球自体はすごかった。
人生の中で、これほど巨大なものを作ったことはない。
「気球って、好きですか?」と問われて、
「好きですよ」と言った、一言から始まった。
実に貴重な経験をさせてもらった。
Kセンセーの「文化祭」のおはなしでした。
当時、文化祭は、夏休みが明けたばかりの、9月初めに行われていました。