母とジュースを飲む
認知症を発症したあとの母と過ごした1週間は、静かで落ち着いたものでした。
最後の日に「これから病院に行こうね」といって、車に乗せます。
県都にある病院に、検査入院するためです。
地方の有料道路は、すいています。
途中、無人のサービスエリアがありました。
トイレ休憩のために止まります。
自販機でジュースを買って、二人で飲みました。
緑の山々を見ながら、
母がもう二度と実家に帰ることはないだろうと思うと、涙が溢れそうになります。
母に気づかれないように涙をこらえました。
そして、身内の準備した病院へ。
母は入院の後、施設に入所し、現在にいたっています。
無理なことだと解っていましたが、認知症を発症する前に、
「ぼくたちのところに来ない」と話したことがありました。
何度か言いましたが、そのたびに「それはできない」と断られます。
無理からぬことです。
今はすべて、身内が面倒を見てくれています。
これまで関わったことのある施設の中では、最も素晴らしいところです。
入ることができたことに、ほんとうに感謝しています。
しかし、モノを送れません。
電話をするのもダメです。
年に1~2回、帰郷し施設を訪ねるだけになりました。
まだ私のことを覚えています。
行くと、満面の笑みです。
いつまで記憶が残っていてくれるか。
2~3秒前に話したことも、もはや記憶していません。
母がくりかえし口にするのは、「お父さんは、どうしているの?」です。
父は酒乱で、夫婦喧嘩がたえなかったのに … 。
今年は、秋に帰ろうと思っています。
* 庭のミニトマトに青い実がつきました。