沈黙の運動場 空っぽの教室
そして 桜の木は残った … 230405
久しぶりにKくん(Kセンセー)と電話で話した。
2、3年前、彼もかつての勤務校を訪問した、と。
以下は、Kくんの話。
「○○高校前」というバス停前にあったコンビニ。
跡形もなく消え、更地になっていた。
校門を入り、駐車場へ。
数台しか止まっていない。
受付で副校長に会う。
「片付けで慌ただしいので、校内を自由に見て回ってください。
帰るときには、声をかけてください」と言われた。
職員室には数人の教師が、最後の片づけをしていた。
机の配置は、勤めていた頃のままだ。
タイル1枚1枚を数え、
方眼紙を使って、
職員の机の新しい配置を書き込んでいったのが、なつかしい。
教室に行く。
机・イスが一つもない。
黒板には、
「○○高校、さようなら △年×組」と大きな文字で書かれていた。
生徒たちが書いたのだろう。
生徒昇降口へ。
靴箱のあるところの壁が、最初にペンキを塗った場所だ。
当時は、「荒れた高校」「地域に嫌われた高校」だった。
校舎内の壁は、落書きだらけだった。
生徒と一緒につくった「塗夢装屋(トムソーヤ)同好会」。
壁の落書きをペンキで塗り直し、校内を美しくすることが目的の同好会だ。
意味は、「夢を塗るペンキ屋」。
高校はあまたあれど、
ペンキ塗り同好会なんて、われわれだけだっただろう。
廊下や階段のペンキを塗ったあとが、今もはっきりわかる。
図書室へ。
窓から覗くと、一冊の本もない。
県内の高校で、最初の時期に始めた「朝の読書」も、
これで終わりだ。
県下のほとんどの高校で、絶えてしまう。
県は「朝の読書」を広める施策は何もしなかった。
ほとんどカネをかけなくて済み、効果抜群の教育改革なのに。
2階の通路から体育館へ。
ガランとしている。
あの壇上から、学年主任・生徒指導主任としてよく話をしたのを思い出す。
運動場へ。
野球部も他の部活の生徒も、誰一人として練習していない。
人っ子一人いない。
まさに「沈黙の運動場」だ。
運動場の手前、職員室の前の桜は満開だ。
「樅ノ木」ならぬ、桜の木は残った。
県は、自分が勤めている頃、普通科高校としての継続を許さなかった。
校名を変更し、改編した総合学科高校も、今度ついに閉校にした。
県内では、最も成功した例の一つだったのに。
県は、この改編に莫大な費用を使った。
得をしたのは、電子機器販売でもうけた企業だけか。
…
以上が、彼の話だ。
Kくんのかつての勤務校もすでに閉校になった。
二、三年前の3月末。
閉校寸前に慌てて見に行ったときの話だという。
もはや、所有が県から市に移ってしまい、立ち入ることも許されない。
この話を聞いて、「切り捨て」「使い捨て」の言葉が浮かんできた。
伝統校・進学校は、そんな目にあわない。
廃棄処分にあうのは、いわゆる学力底辺校だけだ。
まとめ Kくんと電話した。
彼も、閉校直前に元勤務校を訪問したそうだ。
沈黙の運動場、空っぽの教室。
ただ桜の木は残った。
県による「切り捨て」「使い捨て」か。